見えない相互作用を探る ~ システムコンテキストへの影響分析 ~
Automotive SPICE 4.0 に関するコラム、今回は「システムコンテキスト」についてお届けいたします。
はじめに
Automotive SPICE 4.0 でのシステム要求分析(SYS.2)プロセスにおけるポイントの一つとして、「システムコンテキスト」があります。
その内容とシステムコンテキストへの影響を分析することの重要性について探ります。
Automotive 4.0におけるシステムコンテキスト
システムコンテキストとは、検討中のシステムの「境界」を越えた外部のものを指す技術用語です。
これが、システムコンテキストのイメージ図になりますが、システムの境界を越えた、システムとの相互作用、システムとの直接的または間接的なインタフェースをもつものがシステムコンテキストとなります。
この図では、中央に示されたシステムと外部要素(ユーザー、規制、ハードウェアシステムなど)の相互作用が可視化されています。
それぞれの要素がシステムに与える影響や、システムがそれらに与える影響を考慮することが重要です。
(V3.1)
BP4:運用環境における影響の分析
・ 運用環境における明記したシステムと他のエレメントとの間のインタフェースを識別する
・ システム要件がこれらのインタフェースおよび運用環境に及ぼす影響を分析する
(V4.0)
BP4:システムコンテキストへの影響の分析
・ システム要求が関連するシステムコンテキストのエレメントに与える影響を分析する
V3.1では、BP4:運用環境における影響の分析、というのがシステムコンテキストを指していました。
これがV4.0では、「システムコンテキストへの影響の分析」となり、V3.1よりも、「システムコンテキストのエレメントに、与える影響」を分析する、つまり、外部に与える影響を分析、というのをより明確にした表現になっています。
例えば、車載電動モーターシステムのシステムコンテキストでは、車両のバッテリーシステム、制御ユニット、冷却システム等との相互作用が重要となります。
システムコンテキストに与える影響
では、具体的に、外部に対してどのような影響があるかというと、VDAガイドラインでは、次のような影響が考えられる、とあります。
ユーザへの影響としては、HMI としてストレス、不快感や疲労など。
他のメカトロニクスシステムへの影響としては、振動、音響、静電気、摩耗部品の断片など。
他のコントロールデバイスへの影響としては、信号の品質、設計された取り付けスペースと矛盾するサイズなど、があります。
そして、このような影響は、それぞれのエレメントの所有者にインプットする必要があります。
システムコンテキストはなぜ重要か
システムコンテキストへの影響を分析する際は、まずシステム境界を明確にし、次に外部要素を洗い出し、各要素がシステムに与える影響(またはその逆)を定量的・定性的に評価します。その結果をもとに、システム要件の調整を行います。
このシステムコンテキストの特定と、その影響分析が十分でないと、次のようなリスクが高くなります。
・システム境界や相互作用の漏れによる問題発生リスク
・設計段階での不具合検出遅延
・修正コスト増大の可能性
そのため、この影響分析結果は、それぞれのエレメントの所有者にインプットする必要があります。
その結果、その外部エレメントへの影響を考慮した場合に、システム要求そのものを変更する必要が出てくることもあるでしょう。
例えば、電動モーターシステムの動作温度が、冷却システムの能力を超える熱を発生させる場合があると、モーター設計の発熱制限要件を見直し、冷却システムへの過剰な負荷を防ぐように調整する必要があります。
システムコンテキストの特定と影響分析の重要性は理解いただけたでしょうか?
みなさんは、自分たちのプロジェクトでシステムコンテキストをどのように定義していますか?
おわりに
今回のコラムはいかがでしたでしょうか?
今後も数回にわたってAutomotive SPICE 4.0に関するコラムをお届けいたしますので、ご期待ください。
(安部 宏典)