Automotive SPICE GP 徹底解説 その1 ~ GP2.1.1
今回から数回にわたって、Automotive SPICEに定義されている General Practice(以下GPと記載) について書いてみます。皆様ご存じのように、Automotive SPICE のGPは、各プロセスに展開されるため日本語では「共通プラクティス」として翻訳されています。
この共通プラクティス、わかるようでわからない。特に実際の作業になると、なかなか腹落ちしないと思われている方も多いのではないでしょうか? 私は、その理由は次のような背景があると考えています。
- 各プロセスに展開できるように、プラクティスの文言を汎用的に記述している
- 管理に関するプラクティスにおいては、日本と欧米の文化の差が顕著に表れている
この辺りを念頭におきながら、 第1弾としてGP2.1.1 についてお届けいたします。
日本語の原文は、次のように書かれています:
まず、解釈が難しいのは「プロセス実施目標」ではないでしょうか?
プロジェクト作業をしている人にとって「プロセスの実施に対する」と言われた瞬間「何を言っているんだ?」となる方が多いと思います。更に、備考1では、予算目標や顧客納入日がプロセス実施目標の例として取り上げられています。各プロセスに対して実施目標を設定すると書かれているにもかかわらず、予算や納入となるとプロジェクト全体のことのように思えます。私も長い間上手い説明ができずに困っていたことがありました。それが、ひょんなことから自分たちが実践してきた作業に当てはめてみたら、解釈の仕方が見えてきたのです。最近は、下記のような流れで説明をしています。
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プロジェクト計画立案時に、プロジェクト全体の目標を設定する
例) 生産性を前プロジェクトから10%向上する
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プロジェクト目標を達成するための中間目標を検討する
例) 設計への後戻りが多い傾向にあるため、設計手法を変更して後戻りを20%削減する
例) ビルドエラーが多く結合開始が遅れるため、各モジュールのリリース状況の監視を強化し初期ビルド作業の期間を1週以内とする
など、中間目標を設定することにより、プロジェクト全体目標を達成するための論理的な裏付けをプロジェクト計画時点で明確にするという流れです。参考事例も記載しておきます。
いかがでしょうか? 「私たちの事例」では
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GP2.1.1に書かれている文章を直接表現して言いませんが、各作業で実施すべき指標が明確になっていると思います
一方、「良くある事例」では
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GP2.1.1で書かれていることを直接表現しており、一見良い方法に見えますが、この方法でQCD実績やプロジェクト目標に貢献できるでしょうか?
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プロセス個別の目標としては良くても、プロセスが線でつながっていないため、プロジェクト全体の効果が予測できません
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このようにプロセスを断片的にとらえても、良い目標が浮かばないと思います
Automotive SPICE は、「私たちの事例」でご紹介したような、各企業のノウハウを汎用的に、かつアセスメントで評価しやすいようにまとめたものです。しかしながら、Automotive SPICEのGPの表現からは、事例のような作業が想像しにくいものになってしまっているのです。
このような事例を見れば、皆さんのプロジェクトでも同様なことを実施していると思います。
だだ、この流れだと全てのプロセスに目標が設定できないじゃないか! と言われる方が出てくると思います。上記のように重点的に目標設定して活動する作業と、単純に各プロセスの完了予定日や投入予定工数を計画しておけば、一通りのプロセスに目標が設定できているはずです。 特に難しく特殊な事例ではないと思います。Automotive SPICE のプラクティスに書かれている文言にとらわれることなく、プロジェクトとして当たり前のことを実施すれば良いだけなのです。
プロセスアセスメントモデルは、アセスメント時に評価しやすい項目として構成されていますが、世の中の開発・管理の流れから外れたものが書かれているわけではありません。自分たちが実施している作業になぞって解釈を考えてみることをお勧めします。アセスメントのためだけに無駄な作業をしても全く意味がありません。少しでも疑問がわいた場合は、このようなアプローチをすることで、解決策が見いだせるはずです。
日吉 昭彦