HWE(ハードウェアエンジニアリング)とメカニカルの境目について
ハードウェアとは?
一般的な「ハードウェア」とは、本来金物類全般を示す英語だと思います。コンピューターなどの世界では、プログラム群をソフトウェアと呼んでいることに対して、コンピューターの機械設備をハードウェアと呼ぶ呼称が定着しているのかと思います。
よって、HWE(ハードウェアエンジニアリング)と聞いた時に、ハードウェアの何を対象としたものだろうか?メカニカルは含まれるのか?と疑問に思われる方もいるのではないでしょうか。
HWE(ハードウェアエンジニアリング)の範囲とは?
Automotive SPICEでは、HWEプロセスの技術範囲を「電気又は電子のハードウェアエンジニアリング」と定義していて、以下は除外するとガイドラインには記載されています。
- システムレベルのエンジニアリング、すなわち、メカトロニクスレベルでもなく、ECUレベルでもない。※1 用語集の「ハードウェア」の提供も参照
- 調達 ※2
- メカニカル又はハードウェアのサンプル製造
- 生産プロセス
また、別のコラムにも記載していますが、システムの範囲に関して、「階層的なシステム開発の例」として以下の記載があり、Housing(ハウジング)は、HWEには含まれていません。
- ECUは制御デバイスであり、一般的にハードウェア、ソフトウェア、ケース、コネクタ等で構成されるため、ECUを開発するサプライヤには、SYSプロセスが適用可能である
- 完全に組み立てられたPCBを開発するサプライヤには、HWEプロセスを適用すべきである
上記から、Hosingのケース(筐体)やコネクタの外観形状などは、HWEではなく、機械(メカニカル)設計の中の構造(筐体)設計に含まれるものと考え、上図の「Mechanical」は機械設計の中の機構設計になるものと考えています。
※1:PAMの「1.2 用語」には、以下の記載があります。
ハードウェア:アナログまたはデジタルの機能または操作を実行する、組み立てられ相互接続された電気的または電子的なハードウェアのコンポーネントまたは部品。
※2:「調達」をHWEの対象外としている理由は以下の2点だとガイドラインに定義されています。
・ハードウェア開発は要求主導型でもある。したがって、重要なのはHW又は機械部品がどのようなソースから入手されたかは関係ないため
・調達に関して、予め定義された規格にはIATF16949があるため
調達に対する「プロセスインターフェース」はHWE.2におけるBP「ハードウェア詳細設計の仕様化」の備考3を参考にして下さい。
良くある質問
以下のような質問を受けることがあります。
- ノイズ対策のためのシールド構造の部品は、HWEの対象になるのか
- Housing(ハウジング)に、コネクタ部品は対象になるのか。その場合、HWEの対象外になるのか
このような質問に対しては「電気又は電子」に関わるものは、HWEの中で関与すべきと回答しています。
例えば、電子ノイズシールド特性を持つ構造部品について、機械設計側では構造面(空間的な構造設計)は責任は持てますが、その部品の材質等までは判断が難しい場合があると思います。
電子ノイズなどの電気又は電子に関わる外的影響要因に対する設計要求に関しては、電気電子設計担当から、機械設計担当へノイズシールドの必要性や材質等の要求を伝えることが必要だと思います。
また、コネクタ部品に関しては、構造的な外観形状はHWEには入りませんが、電気的な特性の要素も含まれるため、電気電子設計側で、製品化されている既存部品などから選定し、構造的な外観形状情報を機械設定担当へ伝えて、構造的に許容されるか検討する進め方になっているのではないでしょうか。もしくは、逆に機構的な設計制約が強い場合は、外観形状を先に決定した上で、コネクタ部品を新たにカスタム設計することも必要な場合もあるかと思います。
このようなハードウェアに対する影響分析の実施はHWE.1 BP4(運用環境への影響分析)に、影響を受ける関係者に伝達することはHWE.1 BP6(合意されたハードウェア要求および運用環境への影響の伝達)に記載されていると思いますので、単純に縦割りに分担するのではなく、互いに共有すべき情報を伝達し合いながら設計を進めることが重要なのかと思います。
さいごに
いかがでしょうか。
ハードウェアエンジニアリング(HWE)とメカニカルの境界に関して、判断に悩む部分があるかと思います。
「電気又は電子」と「機械(構造)的」な両面を持つコネクタやケーブルなどの部品に関しては、それぞれの設計担当者間にて、協力し合い、Automotive SPICEでは対象外となっている生産、製造プロセスを考慮した分担にするなど、皆さんが開発する製品開発の現場に合った方法を検討されてみてはいかがでしょうか。
鈴木 功