Automotive 4.0のVAL.1プロセス:検証との違いとその重要性
Automotive SPICE 4.0 に関するコラム、今回は「妥当性確認」プロセスについてお届けいたします。
はじめに
Automotive 4.0では新たにVAL.1(妥当性確認)プロセスが追加されました。これまでのV3.1では「検証」が中心でしたが、なぜV4.0で妥当性確認プロセスが追加されたのか、その背景と共にVAL.1プロセスの意義を探ります。
Automotive 4.0のVAL.1プロセス
4.0で新設されたVAL.1プロセスは、エンドユーザとの直接のやり取りを可能にする最終製品が、その運用対象環境において意図した使用上の期待を満足しているという証拠を提供することを目的としています。
基本プラクティスは5つ。
BP1:製品の妥当性を確認するための妥当性確認手段の仕様化
BP2:妥当性確認手段の選定
BP3:妥当性確認の実施および結果の評価
BP4:一貫性の確保および双方向性トレーサビリティの確立
BP5:結果の要約および伝達
SWE.6(ソフトウェア検証)やSYS.5(システム検証)といった「検証」プロセスと比べてみると、「検証」という用語が「妥当性確認」に変わっただけで後はほぼ同じだということが分かります。ではそもそも「検証」と「妥当性確認」の違いとは何なのでしょう。
検証と妥当性確認の違い
検証(Verification)とは、システムや製品が設計仕様を正確に満たしているかを確認するプロセスです。検証は、各開発段階で仕様通りに設計されているか、ソフトやシステムが設計通りに動作するかをチェックします。
一方、妥当性確認(Validation)は、前述の通り、システムや製品が実際の使用環境下でユーザーの期待に応えているかを確認するプロセスです。具体的には、システムが設計の意図通りに現実の条件で機能するかを確認します。
例えば、自動運転車の開発において、検証プロセスでは、車両のセンサーが適切に動作し、設計されたアルゴリズム通りに動作しているかを確認します。しかし、VAL.1プロセスでは、実際の道路環境やさまざまな天候条件下で、センサーがどれだけ正確に機能し、システム全体が意図通りに動作するかを確認します。このように、検証は「設計仕様通りに動くか」に焦点を当て、妥当性確認は「実際に期待通りに動くか」に焦点を当てている点が異なります。
なぜV4.0まで妥当性確認プロセスが無かったのか
V3.1までの開発プロセスにおいて、妥当性確認プロセスが明確に定義されていなかった理由はいくつかあると考えます。
まず、技術的背景です。従来の自動車システムは、比較的シンプルな構造を持ち、個々の部品やシステムが設計通りに動作するかを確認する検証プロセスだけで、十分な品質と安全性を確保できると考えられていました。しかし、自動運転技術などの様々な技術の進化とともに、自動車のシステムがより複雑化し、相互に依存する要素が増えたことにより、設計通りに動くことの他に、様々な条件下でシステムや製品がユーザーの期待に応えるかを探索的に確認することも必要となりました。
次に、ユーザー中心の設計が強調されるようになったことも一因と考えられます。V3.1までのプロセスでは、技術的な仕様に焦点が当てられていましたが、V4.0では、ユーザー体験や実際の使用環境がより重視されるようになり、システムや製品が現実の使用条件下で快適に動作するかを確認する妥当性確認作業の必要性が高まりました。
こうした理由により、これまでの検証活動とは別に妥当性確認が重要視され、V4.0でVAL.1プロセスが組み込まれることになったのだと思います。
なぜVAL.1は独立した妥当性確認プロセス群として位置づけられているのか
V4.0では、VAL.1が独立したプロセスとして強調されています。その理由は、妥当性確認がエンドユーザーの期待に応えるかどうかをシステム全体の視点で確認する必要があるからです。SYS.5のような検証プロセスは要件通り・設計通りの動作を確認しますが、VAL.1は開発のすべての局面で、実際の運用環境下でシステムがユーザーのニーズに応えるかどうかを評価することが求められます。
例えばソフトウェア開発においては、動作検証だけではなく、モデリングとシュミレーション、プロトタイピング、レビュー等の手法により、要求や設計段階において、実際の使用環境で意図通りに動作するかを評価します。
ハードウェア開発においても同様に、熱、振動・衝撃、電気的変動がハードウェアに与える影響を設計段階でシュミレーションする、設計段階での簡易プロトタイピング、レビュー等の手法により、全ての開発段階で、運用条件における信頼性や耐久性を評価します。
このように、早期開発段階からの妥当性確認は、後の開発段階での手戻りを減らし、ユーザーの期待に応える製品を効率よく作り上げるために重要です。
ソフトウェア単体、ECU単体の開発ではVAL.1プロセスは関係ない?
VDAガイドラインによれば、VAL.1プロセスはエンドユーザーと直接関係するシステムや製品が対象であり、純粋な組込みソフトウェアやECU単体、モーターとECUの駆動システムなどは対象外とされています。これは、エンドユーザー視点での妥当性確認を重視しているためです。
しかし、ECUやソフトウェア単体も、システム全体の一部として運用条件下での技術的な妥当性確認が必要です。例えば、温度範囲や電力供給の変動に対して適切に動作するかどうかの評価は、技術的な観点での妥当性確認に該当します。エンドユーザーとの直接の関わりはなくとも、システム全体の妥当性確認には重要な要素です。
技術の進化に伴い、自動車システムが複雑化し、ユーザーの期待が高まる中で、VAL.1プロセスの役割は今後さらに重要になっていくでしょう。
さいごに
今回のコラムはいかがでしたでしょうか?
今後も数回にわたってAutomotive SPICE 4.0に関するコラムをお届けいたしますので、ご期待ください。
(安部 宏典)