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成熟度レベルアセスメントに必要なインスタンス(プロジェクト)の選び方

先日、Organization SPICE 概説資料を公開しました。 この資料は、Organization SPICE PAM の記載事項をなるべく忠実に表現する方針で作成しております。そのため、少し補足説明を入れないと理解しにくい部分が残ってしまっています。コラムでは、補足が必要だと思われる次の2点について解説いたします:

 

 

今回は、成熟度レベルアセスメントをする際に必要となるプロセスインスタンス選び方についてご説明いたします。PAMの記載事項を要約すると、次のようになります:

 

プロセスインスタンスの選定

    • 可能であれば、少なくとも4つのフォーカスプロジェクトを選択する必要がある。選択されたすべてのプロセスは、フォーカス内で分析する必要がある。十分なカバレッジを達成するために、さらにプロセスインスタンスを追加することもできる。
    • フォーカスプロジェクトと選択されたプロセスインスタンス全体は、いずれも組織ユニットのプロセスインスタンスを適切に代表するものでなければならない。
    • プロセスインスタンスの選択基準は、定義されたアセスメントプロセスに従う必要がある。

 

 


具体的には、どのように選定すればよいのでしょうか? プロセスインスタンスの考え方や組織のプロセス成熟度に関する補足説明がないとわかりにくい内容だと思います。ここからは、これらの背景について説明していきます。

 

プロセスインスタンスとは何を指しているのか?

プロセスインスタンスとは、「組織ユニットの中で組織標準プロセスを使用して活動した実例を示すもの」と解釈するとのが良いと思います。基本的には、1つのプロジェクトが1つのインスタンスとなります。つまり、プロジェクトが組織標準プロセスを履行した結果(足跡)ということです。ただし、プロセス改善プロセス(PIM.3)やスキル開発(RIN.2)など、プロジェクト単位ではなく組織として活動するプロセスは、プロジェクト単位とはならないケースも出てきます。

 

なぜ、少なくとも4つのフォーカスプロジェクト(プロセスインスタンス)が必要となるのか?

成熟度レベルアセスメントは、Automotive SPICE が通常1つのプロジェクトを評価対象とするのに対し、組織のプロセス成熟度を評価対象とするものです。従って、組織ユニット内の限定的な(例えば1つの)プロセスインスタンスを評価しても、組織のプロセス成熟度を公平に表すことはできません。1つだけ良くできた(あるいはアセスメントのためだけに準備された)プロセスインスタンスが組織ユニット全体を表しているわけではないからです。

 

フォーカスプロジェクトは、どのような基準で選べば良いか?

フォーカスプロジェクトは、PAM の記述にあるように組織ユニットのプロセスインスタンスを適切に代表するものでなければなりません。適切なインスタンスを選択をするためには、プロセスの履行にバラツキが出る要因を考慮しておくと良いでしょう:

  • 製品種別:     開発する製品特性
  • 開発フェーズ:   実施する作業工程、要求される期間、品質など
  • 組織体制:     部門/課/グループの特徴
  • プロジェクト規模: 開発の大きさや、携わる人数
  • ロケーション:   仕事の実施される場所(国の習慣や、地域による人の風習など)
  • 顧客:       開発要求元会社の文化

ここに取り上げた例は、プロセス定義内容は同じにもかかわらず、作業上の違いが生まれてしまう可能性のある要因となるものです。成熟度レベルアセスメントの結果は、組織のベンチマークにも使われます。プロセスインスタンスの選定により評価結果が異なってしまうようでは、公平なベンチマークはできません。 従って、成熟度レベルアセスメントにおいては、上記のような要因を考慮して、組織ユニットを代表するプロセスインスタンスを選定することが重要になってくるのです。

選択したプロセスアセスメントモデルに、プロセスインスタンスの選定基準が定義されていれば、当然その基準を使用して選択する必要があります。アセスメントモデルに明確な定義がない場合は、選定した根拠を文書化しておくと良いでしょう。

日吉 昭彦