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Organization SPICE 成熟度レベル4、5の評価で対象にするプロセスについて

先日、Organization SPICE 概説資料を公開しました。 この資料は、Organization SPICE PAM の記載事項をなるべく忠実に表現する方針で作成してあります。そのため、少し補足説明を入れないと理解しにくい部分が残ってしまっています。コラムでは、補足が必要だと思われる次の2点について解説いたします:

 

  • 成熟度レベルアセスメントに必要なインスタンス(プロジェクト)の選び方
  • 成熟度レベル4、5を評価する際のプロセス選定の考え方

 

前回のコラムでは、インスタンスの選び方をご紹介しましたので、今回は成熟度レベル4、5を評価する際のプロセス選定の考え方についてご説明いたします。PAM の記載事項を要約すると、次のようになります:

 

成熟度レベル4、5インスタンスの選定

    • 高成熟度(レベル4、5)については、選択されたプロセスセットがそれぞれ能力レベル4および5を達成することが期待される。このセットには、必ずしもすべてのプロセスが含まれる必要ははない。ロセスによっては、能力レベル3を超える根拠やビジネス上のメリットが全くない場合があるからである。(例えば、統計的な手法が適用できないほどインスタンス数が少ないなど)
    • とはいえ、能力レベル4/5に選択された一連のプロセスについては、それらがどのように業務に貢献しているのか、きちんとした分析が必要である。その分析に基づき、能力レベル4/5のプロセスが、大半のプロジェクト(成熟度レベル4の場合)または企業/組織/部門(成熟度レベル5の場合)において、かなりの量の業務成果に貢献していることを明確にする必要がある。
    • このプロセスセットには、少なくとも1つの基本プロセスが含まれている必要があるが、通常は相互に関連するプロセスグループが存在している。さらにこのプロセスセットには、成熟度レベル2以上の拡張プロセスを含むことができる。

 


これは、どういうことを言っているのでしょうか? 成熟度レベル4以上の活動を経験された方には理解できると思いますが、補足説明がないとわかりにくい内容だと思います。ここからは、これらの背景について説明していきます。

  • なぜ能力レベル4、5を達成する必要のあるプロセスは限定的(このセットには、必ずしもすべてのプロセスが含まれる必要はない)で良いのか?

レベル4、5は、プロセスが事業へ貢献することに焦点を当てているからです。つまり、事業目標を達成するためには、どのプロセスを統計的に制御すると効果があるかを分析する必要があるのです。言い換えれば、すべてのプロセスを統計的に制御しても意味がありません。例えば、品質の向上が事業遂行上の最優先課題とした場合に、MAN.3(プロジェクト管理プロセス)やSUP.8(構成管理プロセス)を統計的に制御することで品質向上に大きく寄与するでしょうか? これらのプロセスを選択するよりも、むしろ過去の不具合傾向を見て、例えば詳細設計プロセスやレビュープロセスに焦点を当てることの方が品質向上に貢献しそうだと思いませんか? つまり、プロセスによっては、能力レベル3を超える根拠(統計的にプロセスを制御する)やビジネス上のメリットが全くない場合がある ということなのです。

 

 

 

  • 次に、「能力レベル4および5を達成することが期待される」 とは具体的にどのような状態なのでしょうか?

レベル4と5では、期待値が多少異なるので2つに分けて説明します:

    • レベル4が期待するプロセス制御

レベル4においては、組織内のプロジェクトから収集した標準プロセスの実績データを活用して、プロジェクトを成功に導くことが期待されています。プロセスは、プロジェクトの実績向上に寄与することに焦点が当てられていますが、プロジェクト実績の向上は結果的に組織の事業実績に貢献することになります。

 

まずは、事業目標を達成するために各プロジェクトはプロジェクト目標を設定します。

次に、プロジェクト目標を達成するためにキーとなるプロセスを選択し、このプロセスを統計的に制御(そのイメージは後述します)していきます。つまり、プロセス実績データを統計的に分析しながら、都度プロジェクト実績を予測して、早め早めに手を打つことでプロジェクト目標の達成に導いていくための手法なのです。

 

データの扱い方の観点から見ると、レベル3のプロセス状態におけるプロジェクト管理では、その時点までに収集したデータを使って状況を把握していると言えます。言い換えると、自動車のバックミラーに映し出された形跡(プロジェクトが実施してきた結果)を見てプロジェクトを管理していることになります。 一方、レベル4では、組織内の過去プロジェクトが使用した標準プロセスの実績データの集合から予測モデルを作成して、都度プロジェクト実績をモデル式に当てはめ、プロジェクト終了時点の実績を予測しながらプロジェクトを制御しているのです。こちらは、航空機がランディングする際に自動操縦で滑走路(プロジェクトのゴール)にアプローチするような例えになります。

 

    • レベル5が期待するプロセス制御

レベル5においては、組織内のプロジェクトから収集した標準プロセスの実績データを活用して、組織のプロセス革新を実現することが期待されています。プロセスは、組織の事業実績の向上に直接寄与することに焦点が当てられます。

 

レベル4の活動においてプロセスを統計的に制御することが可能になったプロセス実績データを組織改革に活用することがプロセス成熟度の考え方の最終ゴールとなります。ここでは、新しい技術を現在使用している標準プロセスに組み込んだ場合に、プロセス実績がどのように変化するかを予測モデルから評価します。

 

このようなことができるようになると、刻々と変化するビジネス環境に合わせてダイナミックにプロセスを改善・改革することが可能になり、競合他社に対して優位性を持つことができるわけです。

 

ここでの説明のとおり、成熟度レベル4の場合活動の焦点がプロジェクトに向けられています。一方、成熟度レベル5の場合企業/組織/部門の業績に焦点を当てていることになります。

 

  • 最後に、「統計的な手法が適用できないほどインスタンス数が少ない」 ということに関して補足しておきます

これは、実際にプロセスを統計的に制御する活動をしてみるとわかるのですが、プロセス実績データ(インスタンス)を数多く、かつ頻繁に入手・評価できないと、実際の制御には活用できないということなのです。

 

例えば、プロジェクトの生産性のような指標は、プロジェクトが終了しないと収集できません。また、このようなデータはプロジェクト1つで1点のデータとしてしか入手できません。プロセスを統計的に制御するためには、プロセス実績の中心値やバラツキを見ながらプロセス実績を評価することになるので、インスタンスが少ないとうまく活用できません。データの母集団を作成するためには、膨大なプロジェクトが必要になりますし、プロジェクトが終わってしまっては、そのプロジェクトの将来を予測できません。

 

わかりやすい例として、レビュープロセスの実績データがあります。レビューはプロジェクトの中でもかなりの回数実施されるでしょう。母集団の作成も容易にできますし、レビュー終了時点で実績値を予測モデルに当てはめれば、直近のレビュー結果がプロジェクトの将来に与える影響も判断することができます。

 

 


今回のコラムはいかがだったでしょうか? PAMには簡単に書かれていますが、なかなか奥の深いトピックだと思います。私たちは、実際の開発現場で成熟度レベル4、5の実装に長らく携わってきました。 この活動では、多くの後戻りと苦悩がありました。一番つらかったのはレベル4、5の目指すところを理解できた時点で、それまで構築してきたレベル3プロセスの定義や実装を振り出しに戻す必要が出てきてしまったことです。それまでは、データの扱いや統計的にプロセスを制御するために適切なプロセス構造や活動になっていなかったのです。 この時、プロセス改善モデルとの付き合い方として、その時点で目標とするレベルだけを意識するのではなく、一度高いレベルを学習した上で、上位レベルから下位レベルを俯瞰して活動する必要があることを学びました。

 

同様の悩みをお持ちの方も多いと思いますので、その際はぜひ弊社までお声がけいただければと思います。

日吉 昭彦